研究概要 |
20世紀の後半以来、著しい速度でグローバリゼーションが進展しており、学術的にも,その功罪について絶え間なく議論がなされてきた。これを受けて,本研究プロジェクトはグローバリゼーションの功罪を経済学的に分析しようという問題意識から出発した。 2008年秋のリーマンショックで顕在化した金融危機を通じて,不幸にして,我々の問題意識がきわめて時宜を得たものであることが実証された.情報や財の国際的な移動コストを大幅に低下させ,世界経済の未曾有の成長を導いたのも,サブプライム・ローン問題を世界の金融市場全体における派生証券の過剰供給に転換し,世界規模の金融危機を演出したのもグローバリゼーションである. 大恐慌以来といわれる深刻な経済危機を受けて,「グローバリゼーションと発展・安定」および「グローバリゼーションと分配の公正性」の解明という本研究のテーマの方向性の正しさを確認した.同時に,世界金融危機の危急性に鑑み,今後は,「グローバリゼーションと経済危機」を中心的テーマに加え,研究を行っていく. 過去10年以上にわたって,矢野が提唱してきた「市場の質理論」は,このような目的の達成のために極めて有効であるというのが我々の見方である.この理論では,一般に,技術進歩は市場を支えるべき制度を現実の市場のあり方から乖離させ,「市場の質」を大きく低下させ,それが経済危機を創出するとされる.本プロジェクトでは,今後,この理論を金融危機との関連で立証していくことを具体的な目標の一つとする.
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