研究概要 |
連続的に変化する音声から,聴覚システムが,どのようにして離散的な言語情報を取りだすのかを解明するために,音声信号を計算理論的に分析した。すなわち,イギリス英語,日本語,ドイツ語,フランス語の音声を,20個の臨界帯域フィルターに通し,その出力パワーの時間変動を因子分析することによって,これらの言語に共通すると考えられる3つの因子を抽出した。7000Hz以下の周波数範囲を4つの帯域に分割することによって,これらの因子の因子得点の時間変化を把握しうることが判った。この知見を生かして,残響や周波数帯域の制限が音声知覚を妨げることを防ぐ技術の開発を進めている。人間の発声・調音機構の解明を目指し,声帯振動による有声音の生成に関して,声門を通過する呼気流の解析法を改良し,さらに,調音器官の運動を,高精度で3次元的に磁気計測するシステムを試作した。音声の分析と,発声・調音機構の分析とを総合することにより,音声コミュニケーションの時間構造を体系的に解明する道筋ができあがった。聴覚体制化の仕組みと,音声,音楽を知覚する仕組みとを関連付けるために,種々の合成楽器音,合成音声を用いて,連続聴錯覚,空隙転移錯覚,分離音現象,空隙の単一帰属化,時間伸張錯覚という錯覚現象のデモンストレーションを試み,現実音に近い音を用いることによって,錯覚が一層鮮明に生じうることを確かめた。中国語の合成音声を用いて分離音現象を生じさせた例においては,中国語の母語話者に対して聴取実験を行い,確かに錯覚によって音節が知覚されることを示した。一方,音系列の群化に関して,日本人と米国人との比較を行い、聴覚体制化に母語の統語構造が影響しうる場合のあることを示した。音楽演奏,残響を付加した音声,さらに視覚における物体の動きなどに関しても,時間的分節の研究を行った。また,音の時間構造の知覚に関して事象関連の観測を開始した。
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