研究概要 |
高速イオンが結晶という周期的配列を通過する際,イオンは時間とともに変化する振動電場を感じる。この電場エネルギーがイオンの内部自由度の準位差に一致すれば,イオンの準位は共鳴的に励起され得る。このRCE現象によってX線領域に相当する準位間の遷移が可能であり,X線領域の位相の揃った,偏光方向が任意に選択可能である励起源に相当するというユニークな特徴をもち,光を使わない量子状態の操作を可能にするのみならず,新しい精密原子分光法という特徴も持ち併せる。H19年度は以下のような,2つのテーマに対して積極的に研究を進めた。 [1]HIMACにおけるダイナミクス研究では,3次元RCE(3D-RCE)によるA型2重共鳴(プローブ:1s2→1s2p,ポンプ:1s2p→1s2s)を従来のHe-1ike Ar^<16+>から,He-like Fe^<24+>へと展開し,2準位間を結合するための結晶振動電場の強度を,利用する原子面を選ぶことによって弱めて観測した。その結果,共鳴スペクトルは,以前観測された2重項から台形型へと変化するという興味深い結果が得られた。また,Li-Ar^<15+>に対して2重共鳴を起こして,n=1準位にあるすべての電子を励起し,3電子励起状態のホローアトムを生成することも試みた。 [2]GSIにおけるスペクトロスコピー研究のためには,実際にGSIへ赴いて,実験チェンバーの設計やビームラインの整備検討を行った。放出X線を観測するために必要な検出器系としては,X線測定用のSi(Li)検出器を導入したのみならず,真空中で動作する新しいSDD(Silicon drift detector)のテスト開発も進めた。また回路系は,TDC,ADC同時動作の回路系を導入した。
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