室温大気下で安定なニトロキシドラジカル分子の電気化学的に可逆な酸化還元を、二次電池の電極反応として利用し、p型およびn型活性の2種ポリマーをそれぞれ正・負極とした全有機電池のプロトタイプを試作し、その動作を実証している。本研究では、安定ラジカル種が関与する電子移動過程の確立を基盤として、SOMOレベルと不対電子の非局在化度を制御し、密度高く安定なレドックス席を有するラジカルポリマーを合成することを目的とする。また、物質移動過程の制御により、ポリマー内での迅速かつ大容量の電子移動過程を達成する。さらに、イオン輸送性を高めた新しい活物質の設計により、電解質および電解液の大幅な削減を可能にする。これら基礎的追究から得られる知見を総合し、「次世代有機ラジカル電池」として具体化するのが狙いである。 (1)ポリマー膜の構造制御:ラジカルポリマーのガラス転移について解析し、バルク構造を解明した。各種熱分析および動的粘弾性試験などから、一次構造との相関や架橋密度分布などを把握した。ブロックコポリマーへの展開に着手し、相分離ドメインのサイズ制御に基づく連続拡散経路の形成に関して基礎知見を集積した。 (2)新規n型ポリマーの開拓:全有機二次電池の負極を構成するn型活物質を探索した。予備知見を集積しているニトロキシドを用いて、電子吸引基の導入によりN-トオキシルアニオンへの還元性を増加させた。強い電子吸引基によるSOMOの非局在化度の変化を、電極反応速度定数から予測した。また、SOMOレベルを指標として置換基効果を定量化し、還元電位との相関を明らかにした。隣接位にカルボニル基を有するアシルニトロキシド類にも拡張し、電子吸引基の適用範囲を明確にした。さらに、n型活性が期待できるニトロニルニトロキシドおよびガルビノキシルに対象を広げ、電位および速度定数を決定すると共に、還元状態の安定性を評価した。
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