昨年度の研究で、P450_<BSβ>のデコイ分子としてパラ位に置換基を有するフェニル酢酸を反応系に加えると、酸化生成物のキラリティーを反転させられることを明らかとすると共に、デコイ分子を用いるシステムで、芳香環水酸化反応が進行することも併せて見出し出している。構造解析では、P450_<BSβ>と同じく過酸化水素を利用することができるP450_<SPα>の基質結合型の高分解能結晶構造解析(分解能1.65Å)に成功した。P450_<SPα>はP450_<BSβ>に比べて反応空間が狭く、逆に長鎖脂肪酸が取り込まれている疎水性のチャネルは広いことが分かった。長鎖脂肪酸のカルボキシル基は、241番目のアルギニンと静電相互作用してヘム近傍に固定化されており、P450_<SPα>もP450_<BSβ>と同じ過酸化水素の活性化機構を持つことが明らかとなった。P450_<SPα>に鎖長の短いカルボン酸をデコイ分子として反応系に添加すると、スチレンのエポキシ化反応が進行した。興味深いことに、P450_<BSβ>と同じデコイ分子を用いた場合に、酸化生成物のエポキシドのキラリティーが逆転することを見出している。同じ過酸化水素駆動型P450でも反応空間の形状が異なるために、デコイ分子の作用も異なることが示された。さらに、P450_<SPα>の反応空間を変異導入によって改変すると酸化活性が大幅に向上し、スチレンのエポキシ化反応の初期活性が毎分1000回転に達した。この活性は、これまでに報告されているヘム酵素の中でも最大である。ミオグロビン変異体にカルボキシル基を有する基質を対象とする基質固定化部位を設けるために、ヘムポケットの入り口にアルギニンを導入したアルギニン変異体を作成した。このアルギニン変異体は、カルボキシル基を有する基質の(S)-ナプロキセンを水酸化し、その活性はアルギニンを導入していない変異体に比べて高いことが分かった。また、このアルギニン変異体は、S体のナプロキセンを優先的に水酸化することも見出している。
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