研究概要 |
(1) 有機試料用逆光電子分光(lPES)の高性能化と、積極的な活用:これまで、有機試料用IPESの検出器の高効率化、高分解能化、劇的な試料電流の低減などを実現し、多くの有機試料のIPES測定が可能になっている。本年度は、この利点を活かしてIPESによる研究成果を含む原著論文を6報発表した。一例として、これまで試料損傷が問題とされてきた導電性高分子、Poly (3-hexylthiophene)(P3HT)薄膜やフルオレン誘導体薄膜のlPES測定に成功し、占有-非占有電子構造の直接観測を行った[K. Kanai et al, Phys. Chem. Chem. Phys., 12, 273-282, (2009)]。この成果は、本研究で開発したlPES装置によって、導電性高分子においても、信頼性の高い非占有状態の電子構造の直接観測が可能となった事を示すものである。 (2) 新しい界面への展開:太陽電池の機能発現にとって重要な有機/有機界面の電子構造はほとんど調べられていなかった。そこで、本年度は、有機太陽電池の典型的な材料であるC_<60>またはC_<60>誘導体であるPCBMと銅フタロシアニンの有機層間の界面を紫外光電子分光(UPS)とlPES、およびXPSを用いて詳細に調べた。その結果、有機/有機界面においては、これまでに考えられてきたような、無機半導体のpn接合とは全く異なる電子構造が実現している事が分かった[K. Akaike, K. Kanai, et al., Advanced Functional Materials, 20, 1-7, (2010)]。この結果は、多くの研究者の先入観に反するものであり、関連分野に対するインパクトはきわめて大きい。特に、これまでに直接調べられていなかった有機/有機界面の電子準位接合を明らかにした事は、今後の有機太陽電池の高効率化や機能の最適化のための基本となると考えられる。この研究成果は独Wiley社Materials Viewに選出され、編集者の解説記事とともに紹介された。また、2010年2月期の"Most accessed article"となっている。その他に、本年度は、新たな試みとして、非線形振動分光(SFG)を用いて、有機太陽電池に内在するP3HTとPCBMの「埋もれた界面」の構造と電子構造を調べる事に成功した。さらに、光電子顕微鏡(PEEM)をP3HT界面に適応する事によって、界面の構造の不均一性に由来する電子構造の不均一性を可視化する事にも成功した[K. Kanai et al., Advanced Functional Materials (掲載受理:印刷中)]。
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