浸透圧変化に対する適切な細胞応答は、生物の生存に不可欠なものであるが、その分子機構には不明な点が多い。そこで、酵母のHigh Osmolarity Glycerol(HOG)経路をモデル系として、高浸透圧適応に係わるシグナル伝達機構の解明を目指す。本年度は、以下の成果を挙げた。 1)浸透圧によるHOG経路の活性化は段階的に進行する。その重要なステップは、Ste11 MAPKKKとその基質であるPbs2 MAPKKとの会合が浸透圧により誘起されることである。 Ste11は本来細胞質に局在するタンパク質であるが、アダプタータンパク質Ste50と共に複合体を形成し、構成的膜タンパク質Opy2と結合することによって膜に局在化するようになる。同様に、Pbs2も同様で本来細胞質タンパク質であるが、膜タンパク質Sho1との結合によって膜に局在する。本年度おこなったOpy2の恒常的活性化型変異などの解析から、浸透圧がOpy2とSho1との結合を誘導し、Ste11とPbs2との相互作用をひき起こす、という機構が示唆された。 2)Sho1膜タンパク質はホモ2量体(あるいはホモ多量体)で存在するが、その機能的意義は不明であった。Sho1の膜貫通領域に系統的な変異を導入し解析したところ、2量体化できないような変異を約10個同定した。それらはすべてHOG経路を活性化できず、さらにOpy2と結合することもできなかった。現在、このSho1多量体化のHOG経路活性化における機能を、システイン・クロスリンク法などを用いて解析しつつある。
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