浸透圧変化に対する適切な細胞応答は、生物の生存に不可欠なものであるが、その分子機構には不明な点が多い。そこで、本研究計画では酵母のHigh Osmolarity Glycerol(HOG)経路をモデル系として、高浸透圧適応に係わるシグナル伝達機構の解明を目指す。HOG経路の上流部位はSho1支経路とSln1支経路とよりなるが、本年度は主にSho1支経路の制御機構に関して、以下の成果を挙げた。 昨年度は、Sho1支経路の活性化に中心的な役割を持つSho1膜タンパク質がホモ多量体として存在することを報告した。本年度は、システイン・クロスリンク法を用いてSho1多量体構造の概要を明らかにした。まず、野生型Sho1 にある二個のCysをSer に変えた後、TM1~TM4の各アミノ酸残基を一個ずつCysに置換した変異体を作製した。化学クロスリンク法で解析したところ、多量体中で隣接するSho1分子の同一残基間のホモ・クロスリンクが、S55C(TM1)、T66C(TM2)、194C(TM3)、A124C(TM4)などでみられた。さらに、S55C/I94C、T66C/I94Cなどの二重クロスリンク実験より、TM2/TM3を境界面とした3量体が基本ユニットであり、その3量体がさらにTM1/TM4の境界面で2量体化することがわかった。このことから、6個の3量体で構成されるリングが2次元に展開するhoneycomb状の多環構造という全く新規な構造モデルが得られた。 また、Cys残基同士が直接ジスルフィド結合する例も見つかっている。これらの残基はきわめて近い距離にあるはずであり、TM領域を構成する4本のヘリックス聞の相互位置関係を推定することが可能になった。今後、このSho1多量体構造の機能的意義を明らかにする計画である。
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