本研究では、魚類ゲノムに含まれ様々な筋肉で発現するミオシン重鎖アイソフォーム遺伝子(MYHs)につき、個々の発現やその発現制御機構について解析を進めている。このうち、トラフグMYHsの一つで遅筋と心筋に特異的に発現するMYH_<M5>については、平成21年度までの解析で、翻訳開始点上流479b~606bの領域中に遅筋/心筋特異的な発現に必要なプロモーターが含まれることを示した。平成22年度には、ゼブラフィッシュのMYH_<M5>オーソログについて、転写産物の分布をin situ hybridizationにより解析した。その結果、ゼブラフィッシュ胚では当該遺伝子は速筋に、成体では表層遅筋に主に発現することが明らかになり、胚および成体のいずれでも遅筋/心筋に特異的な発現を示すトラフグMYH_<M5>とは明確に異なる発現パターンを示した。さらに、周辺のゲノム構造を魚種間で比較したところ、MYH_<M5>およびオーソログ周辺の構造にはシンテニーがみられたが、メダカゲノムではMYH_<M5>オーソログが欠損していることも明らかになった。以上の結果は、魚類筋形成におけるMYH_<M5>およびそのオーソログの魚種特異的な機能を示唆する。 また、トラフグ胚の速筋で発現するMYH_<M743-2>につき、平成21年度までの解析で翻訳開始点上流1-2kbに速筋特異的な発現に必要なプロモーターが含まれることを示した。平成22年度には、欠損変異体を用いた解析から、翻訳開始点上流364b~664bの領域が特に重要であり、当該領域に含まれるSRF、MyoDおよびMEF2の各転写因子の結合部位が転写活性に大きく寄与することを明らかにした。また、MYH_<M743-2>は鰭や顎の筋肉でも発現するが、それらの発現にはMyoD結合部位が関与するがMEF2結合部位は影響しないことも明らかになった。
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