研究概要 |
基盤Sでは、細菌の異物排出タンパクの構造に基づく異物認識機構の解明と、その発現制御機構ならびに生理的役割の解明を目指している。まず、発現制御機構については、様々な新しい知見が明らかになってきた。外膜のリポタンパク質NlpEは環境センサーの一つとされているが、その高発現によって二成分情報伝達系CpxARを介してAcrD, MdtABCという異物排出タンパクを誘導し多剤耐性化をもたらすという新しい機構を発見した(AAC, 2010)。同様の機構は大腸菌だけでなく病原細菌サルモネラでも発動しており、臨床的にも重要な発見と言える。近年注目されているRNAシャペロンHfqの多剤耐性への関与も解明した(JAC, 2010)。このほか、異物排出による多剤耐性調節機構に関して2009年度中に5編の論文を発表した。構造に基づく異物認識機構については大きな前進があった。これまで、ミノサイクリンとドキソルビシン2つの基質結合構造解析から、多剤認識の構造的基盤としてマルチサイト結合という考えを提唱してきた。しかし、もっと大きな基質についてもタンパクの構造変化無しに認識可能かどうか疑問が残されていた。本年度、ミノサイクリンの1.5倍から2倍の分子量を持つエリスロマイシンとリファンピシンの結合構造決定にほぼ成功し、その結合位置を特定した。驚くべきことに、3つのモノマーのうち、結合モノマーに結合しているのではなく、待機モノマーに結合していた。一見、大きくかけ離れた位置のように見えるが、子細に検討すると、基質の入り口から、ミノサイクリンが結合しているフェニルクラスター領域に続く分子内チャネルのうち、クラスターへの入り口の外に結合していることがわかった。すなわち、大分子量故に、経路の途中に引っかかっていたのである。これらは最終的には排出されるので、そこで詰まっているわけではなく、そこが認識部位になっているものと考えられる。マルチサイト結合領域は当初の予想よりも広範囲にわたっていることが明らかとなった。
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