研究概要 |
本研究では、神経細胞間の機能的結合性の時間変動に着目し、時間方向の情報を入れ込んだ新しいダイナミクス・デコーディング解析を、生物学的知見と情報工学的手法とを融合することにより実現することを提案する。本年度は、神経回路網の結合バターンの規則性や論理性をT-ノルム,T-コノルム演算子を用いて抽出し、特長量として解析することを試み、この手法で機能的結合が適切に見積もれることを確認した。また、電流刺激による外界情報の入力に関し、自発活動と誘発活動の関係性を考察した。特に、誘発活動と自発活動の相互作用を論じるために電気刺激後の活動頻度のばらつきと自発活動のみのばらつきとを比較し、その時間依存的な変化を解析した。電流刺激の印加により、刺激後の初期相においては、活動電位頻度が減少し、試行ごとのばらつきが安定する区間が存在すること、刺激によってその後10秒以内の活動頻度が全般的に減少することが見いだされた。これらの結果から、自律的に再構築された培養神経回路網において、自発活動と誘発活動の時空間パターンはそれぞれが神経回路網の一つの状態を構成していることが示唆された。さらに情報表現の時間チャンク幅を検出するために、自発活動の周期性をFFT解析により検証し、電流刺激により誘導される変化が、特に1Hz付近の周波数帯において顕著に見られることを見いだした。1Hz付近の周波数帯はスーパー・バーストと呼ばれる階層的なバースト活動がある部分であり、電流刺激による影響は、ネットワークのより大局的な性質に影響が大きい可能性が示唆された。これらの実験は自発的活動電位の安定性を定量化するために重要な知見を提供する。以上の結果を論文にまとめ、複数の英文誌、和文誌に投稿した。
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