1.プレ・ドッキング法の開発 ドッキング計算の対象とすべき分子を絞り込む方法(プレ・ドッキング法)に関する研究はこれまで殆ど報告がない。従って、これに関する研究はユニークなだけでなく、今後のin silico創薬を行う上で非常に重要になると考え、今年度はこのプレ・ドッキング法の研究に大きなエネルギーを割いた。今年度研究した方法の概要は次の通りである。第一に標的分子のconcavityに発生したα球に基づき、結合する可能性のある擬似分子を作成する。さらに、この擬似分子から擬似分子構造記述子を求める。第二に、既知のリガンド-タンパク質複合体X線構造を用い、この擬似分子構造記述子と実際のリガンドについて計算した2次元分子構造記述子の相関関係を求める。第三に、この相関関係を用いて標的分子に結合し得る分子を大規模データベース中の分子の2次元構造記述子に基づいて予測する。2次元構造記述子を用いるので探索は極めて高速に行える。その結果、Alpha Sphere Filter(ASF)法と名付けたこの方法を既存医薬分子データベースに適用すると、20倍以上の濃縮率で、標的分子に結合する分子を絞り込めることが実証された。 2.生体分子の代謝に関わるタンパク質と医薬分子のドッキング計算 今年度は1の課題に大半のエネルギーを割いたために、このテーマの十分な進捗はなかったが、アミノ酸および核酸分子の生体内代謝に関係するタンパク質に関する調査を完了した。 3.ドッキング・シミュレーションを用いた医薬分子の毒性予測への展開 医薬分子とアルブミンとの結合性は医薬分子の毒性を考える上で重要な問題である。本研究で確立したドッキング手法を用いて、アルブミンへの結合性予測を行うことにした。その第一段階として、今年度はヒト・アルブミンの主な二つの結合部位と現在国内で使用されている1444種の医薬分子との相互作用を解析した。
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