研究概要 |
記憶・学習は神経活動に応じたシナプスの結合強度の増加や減少といった機能的なシナプスの変化により担われている。さらに長期的に持続する記憶は、シナプスの形態的変化を必要とすることが分かってきた。しかし、生体脳におけるシナプス形態的・機能的変化を支える分子的基盤については未だに不明な点が多い。私たちは、小脳顆粒細胞(平行線維)-プルキンエ細胞シナプスにおいて、シナプス前部から放出されるCbln1と、シナプス後部に発現するδ2型グルタミン酸受容体(δ2受容体)とが、成体小脳における機能的かつ形態的なシナプス可塑性に必須であることをこれまでに明らかにしてきた。今年度には顆粒細胞の神経活動が数時間亢進して脱分極すると、Cbln1の遺伝子発現が急速に抑制され、それに伴って平行線維シナプスが減少することを発見した。この機構は成熟後の神経回路の過興奮を防ぐホメオスタシス機構として働くものと考えられる(J Neurosci, 2009)。また、内因性Cbln1は平行線維-プルキンエ細胞シナプス間隙に高密度で存在することを見いだした(Eur J Neurosci, 2009)。面白いことに、シナプス間隙におけるCbln1は、おそらく他の多くのタンパク質によって被われており、抗原性がマスクされていることも判明した。最近になり、δ2受容体のアミノ末端部分にCbln1が直接結合することが判明し、δ2受容体とCbln1によるシナプス形成シグナリング経路が明らかになってきた(Science, 2010)。
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