ウィスコンシンカード分類課題をサルに訓練し、脳の部分破壊の影響観察と神経細胞活動記録を用いて、前頭前野の各部位の働きを調べている。今期は反応競合による認知制御について顕著な成果を得て論文発表した。2次元ウィスコンシンカード課題の通常の条件では、テスト刺激の一個はサンプルに色で一致し、他の一個は形で一致する(競合条件)。サルは長期間に渡って色によるマッチンングルールと形によるマッチングルールを学習しているので、現在有効であるマッチングルールがどちらであっても両方のルールにそった行為がある程度は励起され、反応競合が生じる。反応競合の影響を調べるために、テスト刺激の一個がサンプルと色でも形でも一致し、他の二個がいずれの次元でも一致しない非競合条件を導入した。非競合条件では反応の競合はない。実際に、競合条件と非競合条件を混ぜ合わせて課題を遂行させると、競合条件でサルの正答率はより低く、反応時間も長かった。また、競合条件での試行に続く競合条件試行での反応時間は非競合条件での試行に続く競合条件試行での反応時間よりも短かった。これは、競合条件試行での反応競合の存在が検出され次の試行までに制御レベルを上げることによって、次の試行での反応時間を短縮していると思われる。前帯状溝破壊サル群では競合条件試行に続く競合条件試行と非競合条件試行に続く競合条件試行の間での反応時間の差が維持されたが、主溝破壊群では反応時間差が消失した。さらに主溝領域から細胞活動記録を行なうと、競合条件に依存した細胞活動が記録され、次の試行まで維持された。競合条件の後で活動が高まる細胞と、非競合条件の後で活動が高まる細胞がほぼ同数記録された。これらの破壊行動実験および細胞活動記録実験の結果は、主溝領域が反応競合の表出と保持によって次の試行における制御強化に重要な働きをすることを示している。
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