マウス発生期の大脳皮質脳室面で分裂を終えて誕生したニューロンのほとんど(少なくとも9割以上)が、脳室帯直上で多極性移動ニューロンとして丸一日滞留することを、in vivoにおける定量的解析で証明した。脳室帯直上の部位は、従来分裂細胞(神経前駆細胞)が高密度に局在する部位として認識され、またその意味で定義付けされた「脳室下帯」という名称で呼ばれてきたが、本研究により、その部位の多くの細胞は、実は分裂を終えて長時間滞留中の多極性移動ニューロンであることを見いだした。そこで、その脳室帯直上の部位を多極性細胞蓄積帯(multipolar cell accumulation zone ; MAZ)と命名して報告した。また、それらが将来大脳皮質浅層の錐体ニューロンに分化することも示した。また、滑脳症を含む重篤な脳奇形と関連することで注目されているArxの大脳皮質発生における機能を解析した。その結果、脳室帯における神経前駆細胞の分裂からの離脱と、皮質板への放射状細胞移動の双方を制御していることが示唆された。また、多極性細胞蓄積帯における移動細胞の形態にも影響し、その結果として細胞移動の速度の制御にも関わっていることが見いだされた。さらに、大脳基底核原基に由来する抑制性ニューロンの脳表面に平行な向きの移動も制御していることを示唆する結果を得た。ただし、抑制性ニューロンの運命決定には関わっていない可能性が高いと考えられた。
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