脱ユビキチン化酵素UCH-L1は脳神経系では神経細胞特異的発現を示し、パーキンソン病、アルツハイマー病など神経変性疾患との関わりが深い。また、酵素としての役割に加え、ユビキチン結合蛋白質としてユビキチンの安定化に関わるなどその多機能性と生命現象との関連性が注目を浴びている。今年度はUCH-L1の発現が欠損するgracileaxonal dystrophy(gad)マウスを用い、 UCH-L1がシナプス可塑性、記憶学習に関わることを示した。すなわち、gadマウスではLTPの低下を認め、受動回避反応試験において学習能の低下を観察した。CREBのリン酸化制御がgadマウスで変動していたことから何らかの転写制御がgadマウスで変化しており、その結果記憶学習能が低下する機序が想定される。また、酸化ストレスは神経変性疾患の危険因子の一つと考えられているが、UCH-L1自身が酸化修飾を受け、さらにその際非酸化型に比べ凝集性が亢進し、他蛋白質の結合性が高まっていることが見出された。酸化型UCH-L1の性状は家族性パーキンソン病PARK5の原因遺伝子と考えられるI93M UCH-L1の性状と近似しており、パーキンソン病発症の共通機序にUCH-L1の凝集性亢進、蛋白質相互作用の変動が寄与する可能性が考えられる。以上の成果はUCH-L1が高次脳機能発現や病態の形成に深く関わっていることを示唆する。
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