脱ユビキチン化酵素UCH-L1は脳神経系では神経細胞特異的発現を示し、パーキンソン病、アルツハイマー病など神経変性疾患との関わりが深い。また、酵素としての役割に加え、ユビキチン結合蛋白質としてユビキチンの安定化に関わるなどその多機能性と生命現象との関連性が注目を浴びている。昨年度までに孤発性、家族性パーキンソン病の共通機序としてUCH-L1の凝集性亢進、蛋白質相互作用の変動が存在する可能性を示してきた。具体的な機序として酸化あるいは遺伝子変異によるアミノ酸置換の結果、UCH-L1の構造変化が生じ、その結果chaperon mediatedオートファジー(CMA)の構成成分であるLAMP2等との結合性が亢進しCMAを阻害する結果、本来CMAで分解されるべきアルファシヌクレインの蓄積を引き起こす可能性を提唱した。今年度はUCH-L1が量的に少なくなってもCMAに及ぼす可能性があることをUCH-L1の発現のないgracile axonalo dystrophyマウスで示した。同マウスではCMA基質であるGAPDHが蓄積していた。他方、UCH-L3についてはその生理作用として脂肪細胞の増殖、分化を促進することを見出した。UCH-L3を欠損するマウスでは、脂肪蓄積量の減少によると考えられる痩せが存在した。また同マウスでは筋肉における脂肪酸酸化が亢進している見出し、UCH-L3が筋や脂肪における代謝制御に重要な役割を果たしていることを見出した。末梢情報が中枢神経系にどのように影響するのかを検討する上でUCH-L3欠損マウスは有用と考えられる。また、以上の成果はUCH-L1およびUCH-L3が生命機能発現や病態の形成に深く関わっていることを示唆する。
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