本年度はまず、陸上における実験系の整備を行った。これは、アルペンスキー滑走中に膝前十字靭帯損傷を引き起こすと考えられる動作を陸上にてシミュレートした際に、下腿の膝関節部分に作用する力とモーメントを算出するための新たな実験系である。この実験系はスキー板を固定する装置、床反力計、スキー板、筋電図測定装置、高速度ビデオより構成されており、様々な動作を陸上において実施した際に、力・モーメントといった定量的データを収集することができる。 次に、雪上における実験系の整備を行い、陸上における実験系において得られたデータとの比較検証を行った。この実験系はカセンサーをスキー板とビンディングの間に設置し、陸上での測定と同様に雪上滑走時においても下腿の膝関節部分に作用する力・モーメントを算出することができるようにしたものである。実際に、この実験系を用いて雪上においてスキー滑走を行い、得られたデータを検討した結果、雪上滑走動作においても定量的に下腿の膝関節部分に作用する力・モーメントを算出することが可能であることを確認した。また、雪上においてはカセンサやデータロガー等の計測機器やバッテリー等の電源装置が、低温環境下においても十分に使用に耐えられるものであることも確認することができた。 今回、当初予定していた実験系の整備がほぼ整ったことにより、今後、本格的な雪上におけるデータ収集が可能となり、アルペンスキーにおける膝前十字靭帯損傷発生のメカニズムを明らかにするという最終的な目的に一歩近づくことができたと考えている。今後は、今年度整備した実験系によるデータ収集をさらに進めるとともに、実験系により得られたデータを入力値として、様々な動作において膝前十字靭帯に作用する力をコンピュータシミュレーションの手法を用いて解析する予定である。
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