本年度の研究の目的は、高齢者の認知機能障害に対するアプローチ法として開発された、運動療法とフィードバック療法を統合したトレーニングシステム「速度フィードバックシステム」の前頭前野の活性化(脳血流の増加)に対する効果を検証することとした。広島県内に住む60歳以上の健常高齢者19人に対し、エルゴメーター運動と速度フィードバックシステムを用いた運動を安静を挟みながら各630秒実施し、その間の前頭部の脳血流動態として酸化ヘモグロビン量を光トポグラフィー装置(near infrared spectroscopy ; Nirs)にて測定した。その結果、19人中13人が解析可能であった。各運動実施中の酸化ヘモグロビン量のピーク値は、速度フィードバックシステム運動実施中にエルゴメーター実施時と比較して、有意に増加した。ピーク値までの到達時間(秒)は両運動にて有意差は認められなかった。運動実施終了3分後の酸化ヘモグロビン量の平均において、エルゴメーターと速度フィードバックシステム間に有意な差が認められた。また、運動実施後の酸化ヘモグロビン量のピーク値は速度フィードバックシステムにおいて有意に増加したが、ピーク値までの到達時間には有意差は認められなかった。以上の結果より、速度フィードバックシステム使用において、前頭前野の脳血流量が効果的に増加する可能性が示唆された。脳血流増加と認知機能向上の関連などは、今後さらに詳細に検討する必要がある。
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