研究概要 |
(1) 現地で行った降水量と土壌水分量変化との相関観測から得られた降雨量と雨水の浸透深との関係を用いて、清代における降水量の記録を復元した。その結果を用いて降水の季節変動パターンを現代の降水の季節変化パターンと比較した結果、両者には大きな違いは認められなかった。次に、清代における降水の地域分布の復元を行った。得られた降水量分布パターンを現代の降水量分布(APHRODITEデータセット:Asian Precipitation-Highly-Resolved Observational Data Integration Towards Evaluation of the Water Resources;対象期間:1951年~2007年)と比較した結果、対象とする黒河流域及びその周辺地域においては、北東部や南西部を除き、おおむね良い一致が見られ、降水パターンについては時代によって大きく変化していないことが判明した。そこで、降水量の歴史的な時間変化を調べてみたところ、19世紀の前半から後半にかけて時代的に降水量が減少してきていることが明らかになった。このことは、氷コア解析から得られた降水量の変動傾向とも一致している。 (2) 上記の結果は、研究対象としている中央ユーラシアの乾燥地域に位置する黒河流域において、近年水不足が顕著になってきている一つの要因とも考えられる。しかし、同地域の水環境は、単に気候変動だけではなく、流域内における人為的な水分配政策にも支配されているため、中国政府の水施策(生態移民政策など)をも含めて検討する必要がある。そこで、過去の水環境の変化や最近の生態移民政策の実態の解析も合わせて実施した結果、特に近年の水不足は気候変動よりも人為的な影響が大きいことが判明した。 (3) 上記の結果を、学会誌や海外の国際学会、国内の学会などで発表した。さらに、一般用の書籍として刊行するとともに下記映像資料の日本語版を監修し、その上映などによっても公表した。 DVD『エチナ生態移民へのインタビュー記録(日本語版)』17分版、37分版 中尾正義(日本語版監修),丁平君(中国語版原作),2011年
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