前年度に引き続き紫外光源、分光器を中心とした光学系の調整および特性評価と、光電子顕微鏡像の観察を行った。本研究で開発を進めている絶対仕事関数顕微鏡では分光した光を用いるため、必然的に光電子強度が小さく、信号強度を稼ぐためにはコントラストアパーチャを大きくする必要がある。しかしこの場合には対物レンズの球面収差により、光電子顕微鏡像の分解能が劣化する。今年度はこうした問題を克服するために、電子光学的な収差補正に関しても検討を進めてきた。以下ではその結果について述べる。 収差補正法としては、多極子を用いる方法と、ミラーコレクタを用いる方法がある。絶対仕事関数顕微鏡のベースとなっている光電子顕微鏡では、低エネルギー電子を結像するため色収差の影響が比較的大きく、球面収差だけでなく色収差補正もしなければならないため、ミラーコレクタを用いる方法が適している。ミラーコレクタの各電極に与える電圧やミラー電極の形状の最適化を行うための電子光学シミュレーションを行ったが、その結果として、用いる電源に高い安定度が必要であることが明らかとなった。現在市販されている電源の安定度では不十分であり、ミラーコレクタを実際に使用するときには安定度を高めた電源の設計・製作も必要となることが指摘できた。また、ミラーコレクタでは球面収差・色収差の補正が可能であるが、軸外収差、特に歪み収差が非常に大きく、観察される像に歪が生じることも明らかとなってきた。この問題点に関しては次年度以降も継続して検討を行う予定となっている。
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