遺伝子転写機構に関する研究は近年著しい進歩を遂げ、多くの転写因子が同定され、その機能が解明されつつある。重要な生命現象に関与する特定の遺伝子の転写は、個々の核内受容体のリガンドによって特異的に制御されており、その多くが癌、リウマチ、動脈硬化、糖尿病などの生活習慣病および自己免疫疾患や心血管系疾患の発症と治療に関与していることが明らかにされてきた。本研究では、個々の核内受容体が発揮する多彩な機能を特異的に制御もしくは検出する化合物を創製し、それをプローブとしたケミカルバイオロジー研究を展開することにより、核内受容体を分子標的とした創薬開発基盤を確立することを目的とする。本年度は以下の項目を行った。 1)疎水性ファーマコフォアとしてのホウ素クラスター研究:カルボランを脂溶性ファーマコフォアとして用いたアンドロゲン、ビタミンD誘導体を設計、合成した。特に、ビタミンD誘導体については、ビタミンD核内受容体リガンド結合領域との共結晶を得、結晶構造解析に成功した。 2)核内受容体機能解析のためのバイオプローブの開発と応用:核内受容体の核内、核外での詳細な機能解析のための蛍光プローブ創製に必要な、環境応答型の蛍光プローブを設計、合成した。Cy7誘導体が目的とする環境応答性を有することを見いだした。 3)天然物を基盤とした核内受容体リガンドの創製:天然物であるRiccardin CがLXRα選択的アゴニストであることに着目し、多様な誘導体合成に有用な全合成経路を確立した。
|