本研究は仏国プロヴァンスに残されている各種美術品・文化財について、可能な限りの理化学的解析法を適用し、作品の物性的側面に関する客観的な情報を抽出する方法を確立し、美術史学と保存・修復科学のなかに、かかる実証科学的なプロセスを定位させ、そこから得られる一次情報の解析結果を従来の意味論的な研究成果に帰一せしめ、人文学の全体的な「知」へと統合する手法を開発し、広く一般へ公開提示することを主目的とする。研究の主対象は、エクス=アン=プロヴァンスのサン=ソヴール大聖堂にある『燃える柴の祭壇画』並びにサン=マクシマンのドメニコ会バシリカ聖堂内礼拝堂にある、同時代の大型聖人像板絵4点である。本研究により下記の課題を実現する。 1)マイクロフォーカスX線CT装置、軟X線撮影装置、走査型電子顕微鏡、マイクロ蛍光X線分析装置、AMS装置、携行型蛍光X線分析装置、デジタルマイクロスコープ、クロモメーター、デジタル赤外線撮影装置、液体クロマトグラフ質量分析計など、各種の解析装置を使って作品の物性と技法について、可能な限りのデータを獲得し、それを修復の現場に還元する。 2)上記データを、過去4年間に蓄積された14-15世紀作品関係物性・技法関連データと比較し、実証科学的解析の運用の安定化と精確化・高度化を図る。 3)従来の美術史学の方法論と実証科学から獲得される客観情報を複合化し、総合評価へと帰一せしめる方法を提起する。 4)日仏共同国際集会を開催し、その議論を踏まえた総合報告書を日仏共同で公刊する。 5)これまで外国研究機関に依存してきた分析データを、総合研究博物館データベースとして蓄積公開し、美術品・文化財等の実証科学的解析ネットワークの中核的研究機関としての機能を具現化する。 6)文化財修復と文化財科学、仏国政府機関と日本国研究機関が、相互に依存連携しつつ、1個の文化事業を遂行するという国際連携文化事業モデルを広く社会に向かって例証してみせる。
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