研究課題
本研究は、先史時代より明治時代に至るまでの、樹木を素材・主題とした美術工芸遺品を通じて、従来蓄積されてきた歴史学の諸成果をフィードバックしながら、日本の木の文化を、他の東アジア諸国との比較史的視座を援用しつつ、跡づけることを目的とする。事業3年度目にあたる平成21年度は、昨年度までのの調査をふまえて引き続き、社寺における調査を行なうとともに、今年度前半までの調査結果をふまえて中間報告会を行なった。具体的な調査事例としては、初年度に購入したファイバースコープを援用することにより京都悲田院の阿弥陀像の像内より、鎌倉時代の仏師快慶の銘文を発見し、本像が快慶作であることが判明した。社寺における組織的な調査としては、引き続き東西文化の分岐点である静岡県に焦点をあて、浜松市の黄檗寺院である大雄寺と宝林寺において調査を行なった。黄檗宗は江戸時代初期に隠元和尚によって中国より新たにもたらされたもので、仏像や肖像絵画など、文化財の面でも、それ以前のわが国にはなかった新来の様式をもたらした。これら新来の様式による作例を、従来のわが国における作例と比較することで、彼我の木彫像および肖像に対する文化的背景の違いを考えることが可能となる。本調査により、そのための貴重な資料を得ることができた。また、東日本の事例として、山形県寒河江市の平塩熊野神社において神像およびご神宝の調査を行なった。寒河江は平安末から鎌倉時代にかけて、宗教的な遺物、作例の多い地域であるが、本調査の結果、熊野信仰がこの地にいつ浸透してきたかを考える上で、貴重な資料を得るとともに、この地固有の神の姿に関しても新たな知見を得た。これと平行して、各研究分担者は、自事業目的にそって個人研究を遂行した。たとえば、初年度に行なった静岡建穂寺において補足調査を行ない、前回は調査できなかった秘仏の本尊に関して調査を行なった。その結果、これが鎌倉仏師長勤による天正五年の作であることがわかり、まだ不明な点の多い中世の鎌倉地方仏師について新資料を得ることとなった。これらの成果は、京都国立博物館発行の『学叢』に調査報告を掲載するとともに、とくに重要と思われる事例は冒頭にも記した中間報告会において公表した。この中間報告会には美術史、宗教史の専門家50名の出席があり、有意義な意見交換が行なわれた。
すべて 2010 2009
すべて 雑誌論文 (2件) 学会発表 (5件) 図書 (2件)
仏教美術研究上野記念財団助成研究会報告書 予言と調伏のかたち 37
ページ: 1-6
学叢 31
ページ: 119-143