古墳の埋葬施設を構成する石材に彩色や彫刻によるさまざまな文様を描いた古墳、いわゆる日本列島の装飾古墳は北部九州を象徴する古墳文化のひとつである。天然に産出する鉱物や粘土などを磨り潰して作られた顔料を使い、石室の壁に幾何学文様や具象的な図像を描いた古墳である。このような装飾古墳は、福岡県・熊本県内にも300基を越える装飾古墳が存在し、全国では500~800基に達する。従来、装飾古墳の保存のための経過観察作業は、目視した観察結果を写真および石室実測図に書き込むことで行われてきた。両者の長所(写真の持つ情報量と図面が持つ位置関係の明示)を兼ね備えた新たな画像が作成できれば、装飾古墳の異常の観察・対処、保存策にも大きく寄与することになる。その画像とは、VR画像である。この画像上に装飾古墳で観察された異常を記入し、数年次にわたって結果を蓄積すれば、それが装飾古墳の異常の経過観察の基礎となるデジタルアーカイブとなる。 今年度は、線刻装飾を持つ大阪府高井田横穴墓群(国史跡)の3基を対象としてVRモデルを作成し、正斜投影画像やパノラマコンテンツも作成した。また、平成19年度からの研究成果を纏めた報告書を、昨年度に引き続いて作成し、その概要を製本・刊行した。これら以外に、日本の装飾古墳と比較研究を進めるため、イタリア・エトルリアの彩色壁画墓の現地視察・調査等を行い、報告書に反映させた。本年度は最終年度であり、VRモデルを作成した装飾古墳は22基に達した。
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