(1)地方財政のシステム改革の枠組みの理論的分析 地方財政の改革は国と地方の役割分担であり、自治体の自律性を踏まえた本人(中央政府)と代理人(自治体)関係とみなすことができる。そこで、Gilbert and Picard(1996)らの最適権限委譲モデルを参照して三位一体改革の理論的分析を行い、国の財源と自治体の自己財源及び行政活動の分担のあるべき姿を明らかにする。次に、役割分担を所与として、地方財政改革をどのように進めていくかにつき検討する。まず、NPM的改革とガバナンス的な「新しい公共空間」改革の双方が混在・融合しているため、改革施策が二つの理論的背景でどのように位置づけられているか、また、片方の理論的背景で推進されている施策はどれかを明らかにする。そして、こうした改革の両義性は、他国の地方財政改革においても見られるのか、なぜそうした状態が生じているのか、両者が対立する場合の処理はどのように行われているかを検討する。 (2)マネジメント原理と手法の対応関係 上記2つの理論的背景は、マネジメント原理として(1)財政規律を強制的に確保する指揮と統制、(2)権限委譲と透明性、(3)擬似市場、(4)ネットワーク、(5)これらの組み合わせ、から構成される。(1)は官僚制・集権的管理、(2)と(3)はNPM的管理、(4)と(5)はガバナンス的管理と置き直すことが可能であり、 種々のシステム改革をこれら5つの原理と対応させ、各原理が機能する前提条件をどの程度満たしているかを、わが国と諸外国の社会経済制度の違いを踏まえて明らかにする。(1)から(3)まではコーポレート・ガバナンスモデルを準用して代理人(プリンシパル・エージェント)理論や契約の経済学等を用いて原理と手法を説明できるが、(4)と(5)については数理的な経済学モデルとして確立されたものがなく、社会学のネットワーク理論や経営学の資源理論等を応用してモデルを開発して検討する。 (3)システム改革の効果・有効性の検証 次に自治体のガバナンスの構造とマネジメント・システム、ステイクホールダーの行動及び成果の相互関係を特定化するモデルを開発する。そこで、本モデルを利用し各システムに適用する場合の成果について仮説を設定し、実際の地方財政及びステイクホールダーの行動がどのように変化したかを地方財政統計と独自に行う主要アクターの行動に関するアンケート調査結果を用いて、仮説を検証する。その実証分析を通じて、理論モデルの妥当性の程度、成果に有意な影響を与えるガバナンス構造、マネジメント・システムや行動及び組織・地域特性(組織文化や社会的繋がり・規範・信頼を意味する社会的共通資本を含む)を特定化し、わが国地方財政の改革につき学術的見地から政策的含意を得る。
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