本研究の目的は、1990年代後半から大きな変貌を示す日本企業の統治構造と企業パフォーマンスの関係を包括的に分析することである。 分析は以下の3局面からなる。 ●内部ガバナンス(取締役会構造・報酬システム)と事業・内部組織・雇用システムとの関係 ●株式所有構造の進化(M&Aなど支配権市場の進化を含む)と内部ガバナンスとの関係 ●生産物市場における市場競争と企業統治の関係 本年度は、前年度に続き、データの収集、必要な変数の作成を進める一方、海外の研究者と連携しながら、上記の3テーマに関する分析を深化させた。 データ面では、(1)1980年以降を対象とする早稲田コーポレート・ガバナンスDBに関して、予定していた取締役構成、雇用状況、内部組織構造(事業ポートフォリオ・分権度)、研究開発投資、M&Aに関するデータ構築をほぼ終了し、それを基礎とした分析の段階に入った。また、(2)20世紀の大企業の財務・所有構造に関するDBに関して、M&Aと第1次大戦以前のデータの拡充を図った。 本年度の成果としては、上記(2)のDBを利用した海外研究者との共同論文、20世紀の企業市場と経済制度の関係に関する英文論文をNBER、Cambridge、LBSなどで報告し、最終稿を近く投稿予定である。また、本年度は、上記(1)のDBを利用した企業行動と内部ガバナンスに関する分析成果を投稿・公表した。まず、広田・久保・宮島はパフォーマンスと企業文化との関係に関する共同論文を英文誌に投稿した。また、M&Aの決定要因に対する企業統治の影響に関する論文を宮島・蟻川が共同執筆した。また、久保・斎藤による配当政策と経営者持株、報酬制度に関する論文が内外の査読付き雑誌に掲載された。その他、研究分担者は、上記のDBの拡充に協力し、それを利用した成果は、宮島英昭編『企業統治分析のフロンティア』(日本評論社2008年9月)で公表された。
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