研究概要 |
2009年9月に東京大学数理科学研究科大講義室で、多変数保型形式(特にモジュラー記号)に関する比較的な大きな研究集会をもった。インドのTata基礎研究所の数学部門の所長であるVenkataramana教授など、この方面の優れた研究に触れて、相互に得る部分があったと思う。他の参加者の中ではErwin Schro"dinger国際数理物理学研究所の数学部門の所長のJ.Schwermer教授、Selberg跡公式の世界的に有数の研究者であるBielefeld大学のW.Hoffmann教授なども講演を行った。集会の大きなテーマは、いわゆる「モジュラー埋入」という幾何学に自然に得られるサイクルを、保型形式という解析的な微分形式の言葉でどのように記述できるかという問題にある程度統一的な研究手法がありうることを感じさせるものであった。12月に東京理科大学で9月の集会で積み残しになった、より代数幾何学な手法による研究を中心に小さな集会を行った02010年1月に「保型形式・保型表現およびそれに伴うL関数と周期の研究」を京都大学数理解析研究所で行い、外国人の若い有望な研究者の旅費のサポートした。2010年3月に、金沢大学の伊藤達郎氏を交えて、association schemeに関して小さな集会をもった。p-進群の尖点表現に関連して新たな方向性を探ったが、代表者の少し先走りもあった。しかし量子群との関係とか、この方面には未開の広野があることを感じさせるものがある。[繰り越し分]複素超球上の保型形式は、Picardの時代からある古い研究対象であるが、モジュラー曲線に比較すると深い研究は非常に不十分である。例えば保型形式の空間の次元公式にせよ、いくつかのきわめて少数の文献に散在的な研究があるに過ぎない。この現状を越えたいとの期待から今回、North Carolina大学のSalman教授を招きミニ集会を企画したのは、代表者を中心として部分的な成果を得つつある、SU(3,1)の大きな離散系列表現の行列係数の研究と、これまでどちらかというと代数幾何学的な手法でやられてきた結果の接続部分を探ろうと試みである。率直に言って参加者の使える手法のあいだに共通部分が多いとは言えず、いろいろ課題を残した。「代数幾何学」と「表現論」という、一番難しいと言われる二つの分野の手法に橋を架けるのは容易ではない。しかしながら、先行する佐武の研究等、過去に提案された問題がいくつか掘り起こされ、今後の研究を導く具体的な課題に光が当てられた(Sakman教授からのコメントなど)。現状のように、実例の作成(しかも個々の実例は興味深いものの、かなりの時間をかけないと成果がでない実例の作成)という行き方では、大きな進展は望めない。局所対称領域の特性を使う手法の重要性を改めて確認できた。早田・古関・織田の計画中の共著論文の具体化への強い動機づけとなった。石井卓氏(成蹊大学)との共著論文である、SL(n,R)の主系列表現に属するWhittaker関数のプレプリントが完成した。
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