本研究の目的は、微小磁性体のマイクロ波領域における新しい磁気特性について系統的な研究を行い、物理現象を明らかにすることである。前年度までの研究によって、マイクロ波輸送特性とマイクロ波整流効果について、解析モデルを提案し実験結果を定性的に説明し、理解することができた。特にマイクロ波によって励起した強磁性共鳴時における磁気抵抗の時間変化が整流効果を発現し、磁気構造の動的挙動に敏感であることから、本年度は微小磁性体中の微小磁気構造の動的挙動を整流効果を用いて検出し、その動的特性を明らかにした。強磁性細線では、スピン波の励起を検出した。磁気円盤では、磁気渦の動的挙動を明らかにした。さらに磁気渦は、電流や外部磁場によって、旋回運動を行う中心位置が変化し、その振幅も変化する。このとき、非線形な応答が出現することを実験と理論から明らかにした。 その他、単結晶Feならびに多結晶Fe細線における磁壁移動速度を実験的に検出し、単結晶Fe細線中では最大で毎秒1kmと音速の3倍程度の速度を示すことがわかった。一方、多結晶Fe細線では、単結晶Fe細線中の磁壁速度に比べて3分の1程度の速度であることがわかった。この違いについて、微視的な磁気モーメントの動的挙動に立ち返って理解を深めるために、マイクロ波整流効果スペクトルを用いて、減衰項を実験的に測定し、算出した。その結果、単結晶Fe細線では、多結晶Fe細線よりも減衰項が小さいことがわかった。この減衰項によって、磁壁の移動速度に違いが出現することを明らかにした。 本研究は、微小磁性体のマイクロ波領域における輸送特性とスピンダイオード効果(マイクロ波整流効果という)の物理機構を明らかにして、高感度動的磁気構造変化を検出する測定手段として確立した。
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