電子ガスの密度が低下すると、電子半径パラメータrsが5.25を超える領域で圧縮率が負となり不安定化することが理論的に予測されている。本研究は、電子ガスモデルがよく成り立つアルカリ金属流体を用いて伝導電子の低密度化を実現し、コンプトン散乱測定により電子ガス不安定挙動を直接観測することを目的とする。平成19年度は、常圧下融点近傍の液体ルビジウムについてコンプトン散乱の予備実験を行い、この結果をもとに本実験用の高温高圧容器とモリブデン製試容器を新たに製作した。これらをSPring-8のビームラインBLO8Wに設置し、調整を行った。 今年度は、この装置を用いて測定を行い、流体ルビジウムについて1000℃、100barまでの高温高圧下(rs≦5.25)でコンプトン散乱スペクトルを得ることに初めて成功した。試料容器の吸収補正等を行うことにより全電子についての運動量密度分布を得、さらに内殻電子の分布(測定温度圧力下で変化せず、ハートリ-フォック計算によるものとよく合う)を差し引くことにより伝導電子についての運動量密度分布を得ることができた。伝導電子運動量密度分布は、密度の低下(rsの増大)と共に幅が狭くなり、さらに、この運動量密度分布を解析して求めたフェルミ運動量は、密度の低下と共に減少し、かつ今回の測定密度範囲では自由電子のものによく一致することが分かった。このように、不安定化を起こす手前の領域(rs≦5.25)での伝導電子の振る舞いは、電子運動量密度分布の様相から見て自由電子的であることが明らかになった。今年度の研究成果により、今後の課題、すなわち不安定化が生じる低密度領域(rs≧5.25)で伝導電子の振る舞いに何が起きるかという問題解明の基礎固めができたと言える。
|