蛋白質結晶周辺の湿度を人為的に制御することで結晶内での分子間相互作用を制御できる可能性が示されてきた。分解能の大幅な改善や急速冷却に伴う結晶配列の乱れの軽減などの成果が得られている。前年度に引き続いて、装置開発を進めた結果、湿潤空気流量300〜450ml/minで相対湿度20〜96%rhの範囲で実験を行うことが可能な装置を完成するとともに、その実験手順を確立した。長時間のデータ収集中、結晶周辺は一定の温湿度環境に保たれる必要があるが、種々の調整の結果、温度揺らぎ0.3K、湿度揺らぎ1%rhの安定な環境が実現されてた。標準試料リゾチームでは、相対湿度に応じた分解能、結晶格子定数や結晶体積の可逆的変化が精度良く再現された。この装置をグルタミン酸脱水素酵素、シタロン脱水酵素、アセチルコリン受容体、アリールマロン酸脱炭酸酵素の結晶などに適用した。本装置は、結晶内部での蛋白質分子のパッキングや揺らぎの制御による蛋白質結晶の質的改善、膜蛋白質など、生物学的・薬学的な興味から構造解析が希求されているにも関わらず、高分解能結晶の作成が困難な蛋白質の結晶構造解析についても威力を発揮すると期待される。 また、装置開発と並行して、温度を軸に取ったサブゼロ温度領域で蛋白質のダイナミクスを探る実験、アリールマロン酸脱炭酸酵素、フォトトロピン光受容ドメイン、多重基質アミノ基転移酵素などの新規な蛋白質についての結晶構造解析や、分子動力学計算を通じた蛋白質の運動と水和構造変化の相関解析のプログラム開発を実施した。研究成果については、順次投稿準備を始めた。
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