研究概要 |
本年度は研究課題の最終年度であり、「マントルの重要な水を含むケイ酸塩鉱物等の構造を高度な多核種・多次元固体NMR分光法により解明する」という研究目的標に向けて、これまで積み上げてきた研究の総仕上げに取りかかった。得られた情報は地球内部鉱物の物性並びに地球のダイナミックス・進化をモデリングするために必要不可欠な定量的基礎データとなる。代表的な成果は下記の通りである。 1.高度なNMR測定法・解析法の更なる発展。特に近年注目されつつあるスピン間の空間並びに化学結合(J結合)を介した相互作用を利用した様々な同種核及び異種核間相関測定法(INADEQUATE. INEPT. 3Q-J-HETCOR, 3Q-D-HETCOR等)を実現させ、複雑な鉱物構造の解明に強力なツールを得た。高分解能NMR法と粉末X線回折法の組み合わせによる構造決定法を確立し、新しい相の構造決定を可能にした。また、局所構造情報を提供するJ結合定数の見積もりを可能にした。ここで従来用いられてきたデータの解析法・理諭に欠陥があることを突き止め、無機・有機化合物の解析に広く適応できる新しい方法を発表した(Xue. SSNMR. 2010)。 2.研究代表者・分担者が発見した複数の新しい高圧相の構造解析を完成した(topaz-OH II : Kanzaki, Am. Mineral. 2010:AlP04の新しいtriclinic(6 GPa,1250℃)とmonoclinic(7 GPa, 1500℃)高圧相:Kanzaki et al., Acta Cryst B, 2011: AlP04-morganite高圧相(5 GPa,1500℃):神崎正美・薛献宇,日本地環惑星科学連合2011年大会発表予定)。 3.その他の水を含む高圧鉱物の構造解明。複数の高圧鉱物における詳細な構造解明も行なった。既に掲載された成果として、topaz-OH I相について温度・圧力の上昇に伴い、nonstoichiometryと構造欠陥が生じることが分かった(Xue et al.Am. Mineral., 2010)。 4.含水アルミノケイ酸塩メルト(急冷ガラス)の構造解明と準熱力学モデリング。1H MAS NMRと29Si-1H, 27Al-1H二重共鳴測定により、含水アルミノケイ酸塩急冷メルト(ガラス)の構造(含水種)を定量的に解明した。更に準熱力学モデリングにより、広範囲組成における化学種分布の予想を可能にした(Maifait and Xue, 2010. SSNMR)。
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