研究概要 |
従来、化学的に不活性とされてきた炭素-炭素結合を切断し、新たな炭素-炭素結合形成に用いることで革新的な合成が実現される。本研究では遷移金属触媒を用いることでこの実現を目指した。検討の結果、キラルなロジウム触媒を用いることで分子内にフェノール性水酸基を有するシクロブタノンの分子内付加/不斉開環反応が進行し、4級不斉中心を有するベンゾラクトンが高い収率とエナンチオ選択性で得られることを見いだした。また、この反応をアクリル酸エステルの存在下で行うとベンゾラクトンのベンゼン環がアクリル酸エステルに付加した生成物が得られることがわかった。また、ニッケル触媒を用いることでシクロブタノンと1,6-エンインによる形式的な[4+2+2]が進行することを見いだした。この反応ではシクロブタノンが炭素-炭素結合の切断によって4炭素ユニットとして働いて1,6-エンインと付加環化し、合成が困難とされているシクロオクテノンが得られる。さらに、2,2'-ジアルキニルビフェニルに対し白金触媒を作用させたところ、ベンゼン環の開裂を伴った新しいタイプの環化異性化反応が進行し、5員環と7員環が縮環した芳香族化合物であるアズレン誘導体が得られることも見いだした。本反応は反応機構的に興味深いのみならず、生成物も有機材料として有用である。すなわちアズレンは構造異性体であるナフタレンと比較して狭いバンドギャップや双極子モーメントを有する多環芳香族炭化水素(Polycyclic Aromatic Hydrocarbon,PAH)であり、有機電子材料の開発など様々な応用が期待される。
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