研究概要 |
リチウムフタロシアニン(LiPc)は、Pc環の形式電荷が-1価の中性ラジカルで、その電気的・磁気的性質に興味が持たれている。粉末ではa, b, x型の3種の多形が知られているが、薄膜ではx, aの2種が存在し、それぞれの特性が調べられている。 本研究では、既報の方法に従いLiPcを合成し、ITO基板上に真空蒸着した。XRDパターンはa型の薄膜が得られたことを示していた。この薄膜について、0.3 MN(C4H9)4・Cl04アセトニトリル溶液中でCV測定したところ、可逆的な酸化と再還元を見ることができた。酸化および再還元後のXRDパターンは、強度の著しい増加とともに、x型のものに変化した。 この電気化学的酸化還元プロセスには、顕著なエレクトロクロミズム(緑⇔紫)も観察された。薄膜作製直後の紫外・可視・近赤外スペクトルはa型の特徴をよく表すものだったが、酸化・再還元してもとの中性状態に戻した後のものはx型のものと酷似していた。製膜直後、酸化および再還元後の試料についてXPS測定を行ったところ、酸化後にLiPc薄膜へのCl04-の侵入が確認された。すなわち、酸化時にCl04-が進入した際、薄膜の結晶構造が初期状態のa型からx型へと変化し、再還元時Cl04-が薄膜から離脱してもx型を保ち続けることが結論される。これは、x型の分子スタック間に存在する1次元チャネルが、ナノイオンパスの役割を果たすものと考えている。
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