研究概要 |
微生物分離の培地としてLB培地・M9培地・肉汁培地などを用いた。低温菌は4℃で培養し、好塩菌は、NaCl濃度を1M〜5Mに調整した培地で培養した。また、貧栄養環境を再現するために培地中の有機物濃度を10倍から1000倍まで希釈した培地で培養を行い、pHもアルカリ性・酸性条件ともに検討を行った。その結果、様々な培養条件で1000種類を超える微生物が生育した。得られた微生物の新規性は16S rRNA配列の相同性に基づいて判断し、既知の微生物との相同性が97%以下であれば新種に分類される可能性が高いと考えた。生育した微生物のうち200種類以上の16S rRNA配列を解析し、新種の候補であると考えられた8種類の微生物を中心に同定を進めた。120-1株は既知の微生物との16S rRNA配列相同性が93%程度と極めて低い値を示した細菌である。120-1株は直径0.5〜1.0μm程度の球菌であり、SEM観察を行ったところ菌体の周囲に突起状構造が観察された。進化系統樹からも新属新種であるだけでなく、新しい科を代表する微生物となる可能性が期待される。120-1株は既知の微生物には見られないような有用物質生産能や代謝活性を示す可能性があるので全ゲノム塩基配列解析を行った。総塩基数5,663,506bp、遺伝子数は5,000-6,000個程度と予想された。107-E-2株はLysobacter属の微生物と近縁な微生物である。コロニーの色は黄色であるが、培養後期には黒色色素を分泌するという特徴がある。またSEMを用いた観察から長桿菌であることが分かった。この株はプロテアーゼ、アミラーゼ、エステラーゼ、リゾチームなど様々な分解酵素を生産しており、これらはLysobacter属の既知の微生物にも見られる特徴である。現在報告されているLysobacter属の微生物は全て30℃で生育可能だが107-E-2株は30℃では生育できず、この株は南極大陸から単離されていることからも低温で高活性を示す有用酵素の発見が期待される。これらの他にも興味深い新規微生物が多数同定できた。
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