スピン偏極電流とスピンの相互作用を巧みに利用することにより、スピン系に増幅作用を発現させると共に、スピン偏極電流の存在下におけるスピン系のダイナミクスを明らかにすることを目的として研究を行った。 特に、H21年度は、スピンダイオード以外にも、高抵抗接合における電圧誘起磁気異方性変化を用いた増幅作用についてその原理を探求した。また、ワイヤー系、有機分子系においてスピン系が示す増幅作用についても引き続き検討した。 1) レイヤー構造における増幅作用の研究 H21年度は、トンネル磁気抵抗素子に見られる負性抵抗の物理的機構を明らかにするために、負性抵抗およびその熱効果をフォッカープランク方程式およびランジュバンフィールドを導入したマクロスピンモデルによって解析した。その結果、フォッカープランク方程式では、誤差が大きく本目的には適さないことが分かった。そこで、ランジュバンフィールドを導入したマクロスピンモデルによって有限温度の磁化の運動方程式を直接積分してその挙動を調べた。その結果、絶対零度では1-H平面内のヒステレシスの頂点の外側でのみ負性抵抗が現れるが、有限温度ではヒステレシスが小さくなるとともに原点近くまで負性抵抗の領域が広がることを見出した。 2) 電圧スピン駆動を用いた増幅作用の研究 H21年度は、電圧効果を増幅に用いる可能性について、種々の物質における電圧効果を見ることにより研究した。その結果、膜の状態での磁気異方性を制御することにより飽和磁場の電圧制御、磁化容易軸の電圧制御、保持力の電圧制御などが可能であることを見出した。また、飽和磁場を電圧で制御できる状態を利用することによって室温で増幅作用が得られる可能性があることが見出された。
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