これまでの超高真空4探針プローバーによる測定により、シリコンの表面準位の電気伝導は半導体的であり常温付近での精密な温度制御が必要で有る上、測定結果が接触抵抗におけるジュール熱からもたらされる局所的な温度のむらによって左右されるため、探針の表面に対するコンタクトに関してより高精度な制御が必要となる事が分かった。そのため本年度においては、4探針STM装置においても試料部における常温までの高精度温度調整を行う事を目指して装置の改良を行い、85Kから380Kまでの範囲で試料部の温度を可変するための加熱および温度制御機構を整備し、動作を確認する事に成功した。この装置を用いてシリコン上に製膜した原子層レベルの金属超薄膜のSTM観察および4探針電気伝導測定を行い、基板のシリコンやバルク金属とは異なる薄膜固有の電気伝導特性を測定する事に成功した。本研究成果は薄膜固有の物性発現という観点から重要であるものと考えられる。 また、酸化膜構造上に集積するナノ構造の研究にも精力的に取り組み、電極構造をパターン化したシリコン酸化膜上にてペンタセン分子の薄膜成長を行い、分子の異方性からペンタセン分子の薄膜成長が電極パターン周辺において抑制される事を見いだし、自己組織化膜を電極構造上に作成する事によりこの問題が解決できることを示した。本研究においてもFET構造を作成した電気伝導測定を行う事により、この成長機構が実際に素子の特性を左右する事を示した。本研究の成果は絶縁体膜上における有機デバイス作成過程の制御の指針を与えると共に、SOIテンプレートを使用したシリコンドット構造と有機薄膜の複合構造の作成に関しても有用な指針を与えるものと考えている。
|