磁場によるキャリアの閉じ込めがInAs/AlSb中赤外量子カスケードレーザ(QCL)の発振特性に及ぼす影響を調べるために、量子井戸の面内に平行、垂直方向に磁場を印加し、電流・電圧特性、及び電流・光出力特性を測定した。また磁場によるキャリア閉じ込め効果をテラヘルツ(THz)帯において調べるため、金属導波路構造を有するGaAs THz QCLを作製した。以下にその成果の概要を示す。 (1)InAs/AlSb中赤外QCLにおける発振特性の磁場依存性 InAs/AlSb中赤外QCLに面内平行、及び面内垂直方向に磁場を印加し、レーザ発振特性を測定した。発光層はInAs/AlSb結合量子井戸構造であり、発振波長は6μmである。まず面内磁場を印加すると磁場3T以上でターンオン電圧が増大するのが観測され、閾値電流密度が増加した。閾値電流密度の増大は発光層に注入したキャリアの面内波数が増大し、励起サブバンドの寿命が短くなったことが原因であると予想される。又磁場3T以下では閾値電流密度は変化しないが、電流密度・光出力のスロープ効率の増加するという特異な振る舞いが観測された。一方面内垂直方向に磁場を印加すると、面内平行方向に磁場を印加した場合と異なり、磁場0-7Tの範囲で閾値電流密度の減少が観測された。これはランダウ準位形成により励起サブバンドの寿命が長くなったことに起因すると考えている。 (2)金属導波路構造GaAs THz QCLの作製 低閾値電流密度化が期待できる金属導波路構造GaAs THz QCLを作製し、その発振特性について調べた。Au導波路GaAs THz QCLで観測された閾値電流密度は0.8kA/cm^2、最高動作温度は146Kであった。さらに種々の金属を用いた金属導波路の導波路損失を計算して、Cuが最も低損失であることを見出し、これを実験的に実証した。
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