本研究では、細胞から生体一分子の機能を損なうことなく抽出・分離・集積し、その機能観察及び計測をリアルタイムに行う、新しいマイクロ流体システムの構築を目的とする。最終年度の今年度は、これまで構築してきた基本デバイスの改良およびシステム化に焦点を当てて研究を行った。液滴を用いた生体分子搬送に関しては、大きさを微細化する研究を進め、半径5ミクロン、500ヘムトリッターの液滴を安定して生成できる技術を開発した。これはオルガネラやリソソーム等の1ミクロン前後の生体分子の搬送に適している。熱感応性ゲルを用いた生体分子・集積デバイスについては、生体分子の搬送を水溶液中で行う新しい方式を確立した。これにより、従来のような後処理(ゲルからの分離)を必要としない実用的な分離・集積システムを実現した。流路構造および検出系を最適化することにより、これまで難しかった細胞の高速分離を可能とした。また、蛍光性ナノ粒子を標識とした分離システムも可能となり、種々の生体分子の分離に応用できる可能性が広がった。さらに、エバネッセント光を用いた1分子蛍光検出に適したマイクロセルの構造を提案し、アモルファスフッ素樹脂を構造体に用いることによりノイズの少ない安定な計測を可能とした。多サンプル処理システムについては、PDMSを用いたニューマチック型並列マイクロバルブアレーの改良を進めた。従来はバルブ駆動用の圧縮空気を外部から供給するチューブ接続が必要で小型化・集積化の妨げになっていたが、小型ソレノイドアクチュエータを用いた圧力発生器を搭載することによりこれを解決した。試料液の導入に超小型EOFポンプを用いることにより、16個の培養・薬液導入容器を持つシステム全体を14cmx150cmx65cmの大きさとした。これにより、複雑なサンプル前処理を並列で行える汎用性のあるコンパクトなマイクロ流体システムの実現が可能となった。
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