建物の水平面内に剛性が偏在して捩れ振動が伴い易い偏心建物に、各種ダンパーを如何に効果的に配置するかという、制振構造の未解決の課題がある。偏心建物に顕著な減衰が付加された場合の簡易な応答予測手法がまだ無く、主に時間積分による応答解析を用いた試行錯誤的検討がなされている。そこで、本研究では、偏心建物の動的挙動を数学的に理解・把握した上で、効率的な制御効果について検討した。制振部材と他の部材のバランスによって、捩れ振動抑制の効果が全く出ない場合もあることを示した。 これらの基盤となったのが、20年度に開発した捩れ振動予測法である。地震入力の特性を明快に表す応答スペクトルと実数振動モードを用いる従来型のスペクトル解析法が、最も単純で容易に理解できるが、捩れを抑制する場合は、対象とする構造がいわゆる非比例減衰構造になることから、そのような解析法では多大な誤差が生じ、建物の制振効果を損なう要因のひとつとなり得る。本来は複素数振動モードが必要だが、本研究では実数モードを用いながら、従来型の欠点を補う新しいスペクトル解析法を開発した。 もうひとつの成果として、架構の塑性化を加味した制振設計法の開発が挙げられる。架構が弾性の場合に比べ、塑性化すると層間変形が特定の層に集中し易く、建物全体として顕著な損傷を極力抑えるという制振の効果が損なわれる場合がある。本研究では、架構の塑性化による制振構造全体の剛性の減少、等価減衰の増加を考慮しながら、目標層間変形における各層の等価剛性を理想的な分布にするよう制振部材の設定をすると層間変形もほぼ各層均一になることを発見し、それから新たな制振設計法を提案した。
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