研究概要 |
TiNiSnに代表されるハーフホイスラー型化合物は、有害元素や希少元素に頼ることなく高性能材料の設計ができる環境配慮型の熱電材料である。ところがSnの低融点に起因する非平衡凝固のため合金作製が極めて困難であるという課題を抱えている。この問題を回避できる合金作製プロセスの一つとして、Snより高融点であるSnO_2の還元反応を利用した粉末冶金法を我々は提案し、TiNiSn合金の作製および熱電特性の評価を目指した。安全性の高いAr-4%H_2ガス雰囲気でSnO_2を容易に還元できるが、エリンガム図から予測できるようにTiの酸化反応が同時に進行する。その結果、モル比でTi:Ni:SnO_2=1:1:1となるように調整した混合粉末を反応焼結すると、TiO_2の形成によりTiが枯渇してTiNiSn相の体積率は極端に低い。TiO_2の均一微細な分散は格子熱伝導率の低減に有効であると考えられ、積極的に利用すれば熱電特性の改善に貢献できると考えた。そこでTi比を2倍に増量して反応焼結すると、TiNiSnとTi_2O_3の二相組織の材料が作製できた。ホットプレスで緻密化した試料で電気特性を測定し、Arc溶解で作製した試料と比較した。TiNiSn/Ti_2O_3二相試料の方がむしろ電気抵抗率が低く、Ti_2O_3相は電気伝導を妨げないことが分かった。今後、酸素分圧でTiの酸化状態を調整して熱電特性との関連を探る。また、光学式浮遊帯域溶融法を用いた一方向凝固により(M^a_<0.5>, M^b_<0.5>) NiSn (M^a, M^b=Hf, Zr, Ti)合金を作製し、固溶体効果による格子の熱伝導率低減効果を調べた。一般にHf, Zr, Tiは全率で固溶すると信じられていたが、格子定数の差からTiNiSnだけは相分離する傾向にあることを明らかにした。ZrNiSnにTiを約5 at. %固溶した単相合金で高い電気的出力因子と低い熱伝導率が実現でき、熱電特性向上のための材料設計構築に向けた貴重な知見を得ることができた。
|