研究概要 |
新規プロトン伝導性物質の探索に関して,本年度はアパタイト型化合物に着目して物質探索を行った.以前の研究により,La10-x(GeO4)6O3-3x/2においてプロトン伝導が発現するが400℃程度の低い温度で脱水してプロトン伝導性が失われることを明らかにしている.そこで,アパタイト型構造の一次元チャネルを利用したプロトン移動とプロトン溶解能の両立が期待されるA10(P04)6(OH)2(A=Ca、Sr)のプロトン機能を評価した.プロトンの溶解は確認されたものの電気伝導度は低く,またキャリアは酸化物イオンであると推定された.これは,一次元カチオンカラムに存在するO2-ないしOH-が単位格子当たり二個に限られるため,プロトンのホッピング距離が長いために伝導が発現しないものと推定される. また,酸化物プロトニクス材料の設計指針を検討するため,上記ヒドロキシアパタイトやゾルゲルプロセスにより低温合成したBaZrO3系酸化物などについて,1H MAS-NMR,FT-IR,TG-DTAを行い,プロトン機能を包括的に議論することを目指した.粉末試料の1H MAS-NMRスペクトルにおいては,表面に吸着した水分子に起因すると考えられる成分が強く観察され,これがFT-IRスペクトルにおけるブロードな吸収ピークと対応することを確認した.特に低温合成した酸化物粉末においては,NMRスペクトルにおいてその他にも複数のピークが観測され,TG-DTA測定や伝導度測定などの結果と併せて検討した結果,これは結晶粒界に存在するプロトンに対応すると考えられる.この結果は,低温合成した酸化物においてはバルクにおける伝導に加えて粒界における伝導も発現し得ることを示唆するものである. また,RFスパッタ装置を導入して製膜試験を行い,合成プロセスにおいてプロトン欠陥を導入する手法を開発するための基盤を整えた.
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