研究概要 |
本年度はこれまでの成果をもとにして以下の4項目について検討を行い,それぞれ以下のような成果が得られた. 昨年度の研究成果のなかから,(1)ナノサイズの粒子径を有する蛍石型酸化物における粒界プロトン伝導現象と(2)大プロトン濃度を有するBaScO2(OH)についてさらに詳細な検討を行うとともに,(3)同様に高いプロトン濃度を有するリン酸カルシウム系ヒドロキシアパタイトのプロトン伝導,ならびに(4)水蒸気を含む条件下で反応性スパッタにより水和非晶質タンタル酸化物膜を合成してそのプロトンの特性についてを検討した. (1)では,イオン伝導特性の解明,表面OH基安定性について,交流インピーダンス測定,熱放出スペクトル(TDS)測定,1H-MAS核磁気共鳴(NMR)測定,高温拡散反射型FT-IR(HTDRFT-IR)測定によるOH基の解離能,すなわち固体酸としての特性とプロトン伝導性について検討を加え,低温における異常なプロトン伝導発現について水素結合形成による解離定数の変化をその原因として提案した.またその起源として,以下に示すLewis酸点の中和反応による異なる解離性(塩基度または酸性度)を有するプロトン生成のモデルを提案した. 2M=O+H_2O->M-O・H+M-OH このようなLewis酸点は,ナノ粒子に特徴的な不飽和結合酸素イオンをなどから構成される不安定面を横成しており,OH終端による安定化のために水和反応が生じると考えられる.^1H-MAS NMRと同位体交換を組み合わせた測定を利用して,表面に存在する異なる解離性を有するプロトンの存在を見いだすと共に,このプロトンが大きく安定面が成長した数百nm程度の粒子では観察されないことを明らかにした.キュービックアンビルを用いて,室温,約4GPaという超高圧で条件下のプレス(常温超高圧プレス)によるバルク体が,無機Nafionともいうべき三次元水和層ネットワークを元にしたナノコンポジットを形成しており,水和表面の固体酸の最適設計により,さらなる高プロトン伝導性発現の可能性を示した. (2)では,BaScO2(OH)のRaman散乱測定による局所的な歪みの影響を調べるとともに,固体Scおよび1H-MASNMRによりプロトンの存在形態を追求し,その水和特性とプロトン伝導特性について検討を加えた.高いプロトン伝導性の起源については,バルク伝導以外に粒界プロトン伝導である可能性も浮上した.これは軽水と重水を用いた場合の同位体効果が,一般的な単純なホッピング伝導に比較して大きく,(1)においても同様に大きな同位体効果が現れていることがその理由である. (3)では主に高温FT-IR測定により,プロトンの存在形態を検討し,リン酸カルシウム型ヒドロキシアパタイトとLa-Ge系およびLa-Si系オキシアパタイトの低温水和反応の類似性とプロトン伝導性の特徴についてまとめた.FT-IR上ではOH伸縮振動が同じような波数域に存在するにもかかわらずその導電特性が大きく異なる結果について検討を加えた. (4)またこれまで装置上の問題で遅れていた,物理的方法と水和反応を組み合わせた方法による水和非晶質酸化物膜のプロトン伝導膜の合成を試みた.具体的には,金属Taターゲットを用い,Ar+O_2+D_2O雰囲気下で反応性スパッタにより重水による水和非晶質タンタル酸化物膜(a-TaOx)を異なる酸素量のもとで合成し,TDS,HTDRFT-IR,及びRaman分光測定によりOH基の特性評価を行った.xの値が小さいときにはLewis酸の中和反応による安定な終端OHが高温まで安定に存在するが,xが大きい場合には,分子水が大量に存在し,比較的低温で脱水反応が生じることが明らかになった.この特性の相違によってプロトン伝導性が大きく異なるものと期待される.
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