静止軌道衛星で衛星表面の帯電に起因した放電事故が増えている。これまでの研究で導電体と高分子フィルム絶縁体を隣接させることで、フィルムが高エネルギー電子によって帯電すると同時に両者の境界付近の電界が高まって、空間に露出された炭素系接着剤から電子が放出されることを見いだした。これは一種の電界放出素子であるが、センサや電源を必要としない完全受動型素子である。本研究の目的は、この電子エミッタについて(1)動作原理の詳細な解明と(2)軌道上実証用素子の開発を行なうことである。2006年度の成果は以下の通りである。 ・銅とポリイミドの積層材のマイクロエッチングを使って、電子エミッタを試作し、レーザー顕微鏡等を用いて、表面の加工精度を確認した。 ・エミッタ表面で電界が局所的に300倍程度に強められている箇所があることをレーザ変位計と微動ステージを用いて確認した。 ・電子エミッタ形状を最適化するための計算プログラムを製作した。 ・30分以上に亘って0.035から0.05mAの電子放出を確認した。理論解析の結果、一個の放出点につき空間電荷制限によって0.1-10mA程度で電流値が制限されることが明らかにされ、これらの電流値は実際に実験で観察され0.05-0.7mAに非常に近い値となっている。 ・軌道上での表面汚染に耐えられるかどうかを調べるために、汚染模擬装置を開発した。同装置を使用して実験したところ、宇宙ステーションのコンタミネーション規定値の50倍のコンタミ量をつけた供試体において、電子放出性能が失われないことを確認した。
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