本研究では、宿主がトランスポゾンと通常の遺伝子とを区別する機構、およびエピジェネティックな多様性の生物学的意義について研究することを目的としている。前年度までに、宿主がトランスポゾンと遺伝子とを区別する機構として、遺伝子のメチル化を防ぐ新奇遺伝子IBM1を同定していた(Saze et al. 2008 Science)。また、ddm1で誘発される発生異常の一つを遺伝解析することにより、新奇のシロイヌナズナ内在レトロトランスポゾンを同定していた(論文投稿中)。平成20年度には、以下の成果が得られた。 (1)ddm1を用いることにより、転移能を持つ内在レトロトランスポゾンをさらに3種類同定した(論文投稿中)。これらのトランスポゾンの自然集団中での挙動を知るため、シロイヌナズナの野外系統、および同属近縁種における分布を調べている。 (2)ibm1突然変異で影響を受ける配列をゲノムレベルで知るため、抗メチルシトシン抗体で免疫沈降したゲノムDNAと高密度ゲノムタイリングアレイを用いた(Miura et al. 2009 EMBO J)。その結果、この突然変異体では少なくとも数千の遺伝子のメチル化が上昇することがわかった。一方、トランスポゾンは影響されない。不思議なことに、転写されており、かつ長い遺伝子が最も大きな影響を受けた。トランスポゾンと遺伝子との区別に転写装置が関与していることが示唆される。
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