初年度となる本年度は世界で初めて基質結合型の結晶構造が明らかとなった大腸菌AcrBの高分解能結晶化を目指すとともに、グラム陽性細菌由来AcrBホモログのクローニングを行った。高分解能結晶化については、精製条件などを検討するとともに、新規結晶化方法を用いることで、最高で2.6A分解能までのデータを獲得することに成功した。これは、AcrBについてこれまで報告されているものの中で最も高い分解能であり、さらなる高分解能結晶化を来年度も目指して行く予定である。また、グラム陽性細菌由来ホモログについては、これまでAcrBなどRND型と呼ばれるトランスポーター群はグラム陰性細菌について調べられている歴史的背景をうけ、極めて限られた情報しか利用できないが、今年度の実験でクローニングした6種類のグラム陽性細菌由来ホモログは何らかのトランスポーターであることが分かった。これらは非常に興味深いことに、AcrBとほぼ同じ分子サイズを持ち、何故か外膜チャネルTolCと結合するドメインを有するものと、ペリプラズム空間に突き出たドメインを大きく欠きAcrBに比べ7割程度の分子サイズしか持たないものの2種類があることが判明した。今後はこれらを材料に生化学的研究を進めて行く予定である。また大腸菌AcrA-AcrB複合体における蛋白質工学的研究も進行中で、AcrA-AcrBの結合界面における重要残基の特定は来年度うちに決着させるべく研究を進めている。多剤排出トランスポーターの働きを本質的に理解することは、多剤耐性化問題を克服するための重要な手がかりとなるため、製薬企業からばかりでなく、社会的にも大きな注目を集めている。
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