化学療法に立脚する現代医療現場での脅威の一つに薬剤耐性化問題が挙げられる。多くの抗生物質が効かなくなるこの現象の主因である多剤排出トランスポーターの立体構造決定、さらに基質結合型結晶構造の決定による多基質の認識および排出メカニズムである「機能的回転輸送機構」を解明した実績の上に立ち、多剤排出トランスポーター、とりわけグラム陰性細菌の持つRND型トランスポーターの結晶構造解析を進めると共に、蛋白質工学的、分子生物学的および生化学的手法を用いて、残る排出機構解明に残された問題を解決し、RND型トランスポーターの詳細な構造に基づく機能解析と構造多様性についての総合的解明を目的として研究を進めた。多剤排出トランスポーターの中で最も構造および、機能が明らかな大腸菌由来AcrBの構造に基づく機能解析を進める一方、本研究で扱うAcrBホモログの構造解析と生化学測定を照らし合わせて、トランスポーターの作動メカニズムと本来の生理的役割について研究を行った。また、これまで既に得られた大腸菌多剤排出トランスポーターAcrBの蛋白質工学的研究を進め、多基質認識の構造的基盤を明らかにする目的で変異体を構築し、薬剤排出活性を測定した。その結果これまで考えていた薬剤結合部位と、薬剤取り込み口の間周辺に基質特異性を決定する因子があることを見いだし、filter regionと名付け現在露文執筆へ向けて詰めの実験を行っている。また、機能研究を進めるために共同している英国ケンブリッジ大学のヘンドリック・ヴァン・ビーン博士らと、ABCトランスポーターでは膜貫通部分に同様の基質特異性を決定づける部分が存在することを明らかにした初となる共著の論文を出版した。今後は、RND型トランスポーターについても、共同で排出機構の解明を進めてゆく予定である。
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