研究概要 |
本研究は、EGF-Ras-MAPK回路の細胞内情報伝達反応を題材として、蛋白質分子反応、細胞内分子システム、細胞応答の各階層において反応ゆらぎとその伝搬・加工の実測と、その性質と役割の解明を目的とする。分子反応においてはEGF受容体とRasの反応、分子システムレベルでは、EGF受容体-Rasの反応回路と、Rasの下流に位置するMAPKカスケード、細胞レベルでは、EGFに対する細胞変形・運動、増殖応答を研究対象としている。本年度、分子反応計測においては、EGF受容体の点変異体(Y1068F)を用いて、反応頻度が分子構造のゆらぎを通して反応ダイナミクスに影響を与えることを発見した。EGFRとGrb2の認識反応キネティクスは複雑であり、特に結合反応には多数の反応状態が存在し、負の濃度依存性と反応記憶が観察される。EGFRのY1068のリン酸化はGrb2との主要な認識部位であるが、リン酸化阻害変異体YIO68Fにおいては、反応頻度が減少すると共に、多状態性や反応記憶が消失することが分かった。情報伝達分子システムにおいては、Shc,Raf1,ERK2の局在変化を利用して、反応カスケードのゆらぎの伝搬を計測するシステムを開発した。また、細胞の情報応答を計測するため、光学顕微鏡上へ組み立てる細胞の長期培養計測システムの設計と、一部の部品のテストを行った。また、分子反応計測のためのプローブとして、Ras,Raf1,MAPKの蛍光蛋白質融合体と、Raflの点突然変異体2種を作成した。
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