研究概要 |
(1)piRNAの末端修飾の解析と機能解析:我々はすでにマウス精巣から調製したpiRNAの3'末端が2'Oメチル基で修飾されていることを明らかにしている(NSMB,2007)。今年度は精巣におけるpiRNAメチル化酵素の発現解析,およびin vitroメチル化反応を用いた機能解析を行った。piRNAメチル化酵素は生殖細胞内において,miRNA前駆体を基質にしないことが知られているが,pre-miRNAの5'末端のリン酸基がメチル化されないための決定因子になっていることを明らかにした。また,in situ hybridizationの結果,piRNAメチル化酵素は一次精母細胞で強く発現していることが判明した。 (2)mRNA修飾の網羅的探索と機能解析:イノシン化部位の同定に関しては,公開されている約500万のESTデータベースとヒトゲノム配列の比較から絞り込まれたA/G置換部位をA-to-Iエディティング候補部位とし,ICE法を用いたゲノムワイドな解析を行っている。今年度はエディティングデータベースの本格的な構築を目指し,ゲノム全体におけるイノシン化部位の網羅的同定に着手した。エディティング候補部位を3147箇所抽出し,この部位を含む周辺領域を250〜400塩基のフレームとし,各領域を増幅するためのプライマーを設計した。これらプライマーの設計条件およびRT-PCR反応条件の検討により,設計領域のおよそ7割について増幅および配列解析可能なクオリティでデータを得ることが可能となった。さらに配列解析及び同定部位登録作業の効率化を図るため,各配列データのアライメント,イノシン化部位の正誤判定,イノシン化率の測定,データベースへの登録,閲覧を半自動的に行えるソフトウェア(ICE-CAFE)を開発した。以上のような網羅的解析システムを駆使して解析を進め,これまでに,1344領域について配列データを得ている。その内501領域についてイノシン化部位4401箇所を同定し,その登録作業を完了している。この中でESTの比較からA/G置換部位として観測された1578箇所のうち,実際にイノシン化部位であることが判明したものが,わずかその約半数の805箇所であった。このことは,EST上で見られるA/G置換部位の半分はSNPやシーケンスの間違いであることを示唆している。さらにESTの比較からA/Gの置換が認められない完全に新規のイノシン化部位は3596箇所同定することができた。また今回同定された部位の多くはmRNAの長鎖3'UTR内に存在するAlu反復配列上に存在した。ESTデータベースや各mRNAについての報告から,これらmRNAにはバリアントが存在し,イノシン化部位領域を全く含まない短鎖3'UTRを持つものとイノシン化部位領域を含む長鎖3'UTRをもつものが共存することが考えられる。
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