非対称細胞分裂は細胞の多様性を作り出す基本的機構である。線虫C.elegansにおいては非対称分裂がβカテニンを介したWntシグナル伝達によって制御されている。細胞分裂の際、βカテニンやAPCなどのシグナル分子が細胞表層に非対称に局在し、分裂の終期にβカテニン自身の非対称な核局在を制御している。しかし、その詳細な機構は不明である。われわれは初期胚での非対称分裂の終期に紡錘体が非対称に形成されることを発見している。後極の中心体の方が微小管の数が少ない。非対称な紡錘体形成にはWntや前側の表層に局在しているβカテニンやAPCの機能が必要である。おそらく微小管に結合するAPCの働きにより前側で微小管が安定化されていると考えられる。この非対称性とβカテニンの核局在との関係を明らかにするため、レーザー照射による微小管の操作を行った。後極の微小管をレーザーで壊し、微小管の非対称性を増強させるとβカテニンの非対称性も増強され、反対に、前極にレーザー照射を行うとβカテニンの非対称性が失われた。さらに微小管の非対称性が失われるWntの変異体において、レーザー照射により微小管の非対称性を人為的に作り出すと、βカテニンによつて制御されるTCFの非対称局在が回復した。この結果、Wntは微小管の非対称性を介してβカテニンの核局在を制御していることが明らかになった。 非対称分裂に関与する新たな遺伝子を同定するため、非対称分裂をする表皮幹細胞の数を指標に、ゲノムワイドなRNAiスクリーニングを行った。多数の候補遺伝子が得られ、今後解析していく。
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